世界初の自発的膜構造形成法により、低環境負荷の製造原理を実現
本論文で発表したパターニング法は、光を照射した部分に自発的に材料を流動させることで微細な構造をつくる新しい原理によるもので、特殊な材料や煩雑なプロセスを用いずに、高さ1mmを超える複雑な3次元膜構造を容易に形成することが可能となります。本方法は現像工程が無いため、水以外には廃液や廃棄物が出ない製法であり、様々な製品の製造工程に展開されることでサステナブル社会の実現に大きく貢献することが期待されます。
タイトル:“Spontaneous patterning method utilizing transformation of UV‑curable emulsion”
著者名: Yoshimi Inaba*(稲葉喜己), Hideo Asama(浅間英夫)
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-022-07525-5
掲載誌:国際科学誌『Scientific Reports (サイエンティフィック・レポーツ)』(発行:英国・Springer Nature社)
『サイエンティフィック・レポーツ』 は、自然科学(生物学、化学、物理学、地球科学)のあらゆる領域を対象とし、一次研究論文(※3)を扱う、オープンアクセスの電子ジャーナルです。
■ 研究の背景
電子部材や壁紙・床材などの建装材の表面装飾加工など、微細な3次元膜構造の形成では、その工程数が多く、各工程で多種多量の薬液や洗浄水を必要するだけでなく、エネルギーの消費も大きくなっています。そのため、工程の簡素化と、化学薬品や水などの使用量の削減や廃液を出さない技術の開発が期待されています。
このような課題に対し、凸版印刷はこれまで培ってきた材料プロセス技術を活かした新しいパターニング法の研究を行ってきました。
■ 本論文の概要
(1)独自のパターニング法の確立
複雑な3次元膜構造を形成する手法として、UV硬化型エマルジョンの形質変化を利用する独自のパターニング法Emulsion Transformation Method(ET法)を確立しました。
ET法とは光硬化性樹脂材料を水と混合、エマルジョン化したときの物理化学的な挙動を活用した世界初のパターン形成法で、UV照射・硬化反応をきっかけとして材料が流動し、パターンが自発的に形成されます。そのため、余分な部分を除去する現像工程が不要であり、さらに高さ1mmを超える凹凸構造など複雑な3次元膜構造を形成できます。
(2)Roll-to-Roll プロセスによる連続パターニングの原理検証
ET法をRoll-to-Rollプロセスに応用し、フィルム基材への任意のパターンの連続形成が可能なことを確認しました。
ET法を活用したRoll-to-Rollプロセスでは、パターンマスクを使った光照射だけでなく、プロジェクターを使ったパターン光の照射でパターンを形成することができるため、加工途中でも、様々なパターンへの切り替えや連続的に変化するパターン形成も可能になります。そのため超小ロットカスタムメイド品でも低コストで製造できるほか、版替えが不要なため、それに伴う作業時間の削減や、基材や中間材料などの材料ロスが少なくなるなど、より効率的で無駄のない製造ラインを実現します。
■ 今後の展開
様々な分野の製造工程への応用に向けた研究を推進するとともに、環境に配慮したRoll-to-Rollプロセスによる製造方法を確立します。特に、従来の方法では困難だった滑らかな断面構造の製品や、導電性材料を使った電磁波制御部材の製造への応用にも取り組んでいきます。
従来のパターニング方法が主に化学反応のみに基づいたものであるのに対し、ET法は化学反応と物理作用の両方に基づいた製造技術です。これからも既成概念にとらわれない発想で、さらに革新的な技術を目指して研究開発を続けることで、より良い社会の実現に貢献していきます。
※1 エマルジョン
水の中に油(樹脂を含む)、もしくは油の中に水が分散している状態。物質の乳化状態。
※2 形質変化
エマルジョン液滴の大きさや形が変化、また液滴の硬化による性質の変化で液体から固体状態に変化。
※3 一次研究論文
筆者がオリジナルの研究や実験を行い、オリジナルの研究データにもとづいた研究課題に対する独自の知見を示す論文
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以 上