本講座開設にあたり、東京医科歯科大学 精神科 髙橋 英彦主任教授は「ゲーム行動症は疾患概念が確立したばかりで、いわゆるスマホ依存やネット依存とともに、社会から十分理解されておらず、本人や家族も自覚していない場合が多いとされています。また、スマートフォンやインターネットは生活に欠かせないものにもなっており、単に禁止するということは現実的ではありません。そこで、客観的な診断法や科学的で有効な治療法の開発が、疾病の理解、予防、啓蒙にも立ち返って有益になるものと期待しております。これまでもKDDI、KDDI総合研究所とは共同研究を行い、研究用アプリでスマートフォンの利用状況のログを記録し、人工知能技術を用いた解析により、通常の聞き取りではわからなかったゲーム行動症の増悪や回復のパターンなども明らかになりつつあります。これらの成果をさらに発展させ、より汎用性の高い診断法や治療法開発を目指したいと思います。」と述べています。
■本講座開設の背景
・KDDIらが実施したこれまでの調査(注4)では、コロナ禍でゲーム行動症やネット依存の傾向を示す割合が従来の1.5倍以上に増加しています。以前から社会課題として認識されていましたが、さらに深刻な状況になっています。
・スマホ・ネット依存は疾患としてまだ公式に認定されていませんが、ゲーム行動症は2022年1月にWHO(世界保健機関)が発行した「ICD-11(国際疾病分類の第11回改訂版)」に正式採用された新しい疾患で、有効な治療方針はまだ確立されていません。
・近年、診断や治療などをデジタル化するプログラム医療機器の実用化が期待されています。2023年6月16日に閣議決定された内閣府「規制改革実施計画」の中に「プログラム医療機器(SaMD)等の開発・市場投入の促進」が含まれるなど、プログラム医療機器の社会実装を促進する環境が整いつつあります。
KDDIとKDDI総合研究所は、青少年のスマートフォン・インターネットの利用が長時間化し日常生活に支障をきたす「スマホ依存」に関する調査・研究を2016年から行ってきました。また、東京医科歯科大学はネット依存の専門外来を2019年度に立ち上げ、ゲーム行動症の方を中心に入院治療、外来治療、当事者プログラム、家族支援プログラムなどネット依存の診療に取り組んできました。このような背景から、3者は共同研究を2020年から開始し、ネット依存外来の患者に対してのアンケート調査や研究用アプリでの利用状況の記録を通して、スマホ・ネット依存、ゲーム行動症の解明を進め、研究成果を活用してゲーム行動症患者の診断や治療用アプリの実用化を目指し臨床研究などを進めてきました。
今回3者は、既存の共同研究を発展させる形で本講座を東京医科歯科大学の中に立ち上げ、スマホ・ネット依存、ゲーム行動症の診断や治療に資するプログラム医療機器の実現を通じて、社会の健康促進を目指します。
本講座の内容など詳細は以下リンクをご参照ください。
https://www.kddi-research.jp/newsrelease/2023/100201.html
(注1)スマホ依存とは、疾患ではないが、スマートフォンの過剰な利用により、体力低下、成績が著しく下がるなど、普段の日常生活に支障をきたしているにも関わらず、使用がやめられずスマートフォンを使用していないとイライラし落ち着きがなくなってしまう状態のことを指します。ネット依存はスマホ依存同様、日常生活においてインターネットの使用を優先してしまい、使う時間や方法を自分でコントロールできない状態を指します。
(注2)ゲーム行動症(ゲーム障害)とは、ゲーム時間をコントロールできない、他の生活上の関心事や日常の活動よりゲームを優先してしまうなどの症状があり、健康や人間関係など、社会生活への影響を多大に与える疾患です。
(注3)サイバー精神医学講座は、東京医科歯科大学内の「ジョイントリサーチ講座」制度の一環となります。研究の進展および充実を図ることを目的に、研究機関または企業などの学外機関から研究費および必要に応じ研究者を受け入れることにより、東京医科歯科大学と学外研究機関などが協力し、特定の研究内容について一定期間継続的に協働して研究を行うものです。
(注4)2021年10月12日 KDDI、KDDI総合研究所ニュースリリース
コロナ禍でスマートフォン利用時間が増加し、ゲーム障害、ネット依存傾向の割合は1.5倍以上増加
~コロナ禍で変化するスマートフォンの利用方法と、スマホ依存などへの影響を調査~
URL: https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2021/10/12/5468.html